【たまに会う惑星】 モノンクル吉田沙良×CRCK/LCKS小田朋美が語る新作とシンガーの孤独 AI時代に「楽しい」を追求する理由とは互いのリリースライブも迫る
執筆者: 音楽家・記者/小池直也

ジャズに根差した高い音楽性でデビュー時から注目を集め、ニューアルバム『僕ら行き止まりで笑いあいたい』と『まにまに』を同時期に発売したばかりのモノンクルとCRCK/LCKS。ただ、モノンクルのボーカリストである吉田沙良とCRCK/LCKSのボーカリスト・小田朋美が並ぶのは珍しい。“たまに会う惑星”だという両者が語ってくれたのは互いの新作、そしてシンガーとして感じる孤独についてだった。
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娘が奏でた美しい旋律
――おふたりは以前からお知り合いとのことですが、最初に出会ったのはいつでしょう?
小田朋美(以下、小田):2012年くらいからの付き合いで、もともとはレーベルメイトだったんですよ。
吉田沙良(以下、吉田):思えば知り合ってから長くなりましたね。対バンの機会も何度かあって、そこでセッションしたり、菊地成孔さんが主催していたレーベル・TABOOからリリースしていた時代にも関わってもらったり。
小田:モノンクルの1stアルバム『飛ぶものたち、這うものたち、歌うものたち』の収録曲「春を夢見る」と「希望のこと」のライブ用ストリングスアレンジを担当させてもらったのをよく覚えてます。
吉田:ありましたね。近い距離にいるんだけど、こうしてご一緒するのは本当にレア。
小田:たまに会う惑星みたいなね。細かく連絡を取り合ったりはしないけど、会えると嬉しい。
――お互いの印象を改めて教えてください。
小田:ストレートに歌が上手いし、魅力的な歌を歌う人。ドキドキする歌声だなとずっと思っています。何度も言っているんですけど、沙良ちゃんの歌を聴いていると恋がしたくなる。
吉田:そんな話ありましたっけ……。
小田:言われたほうは覚えてないパターンだ(笑)。
吉田:私にとって小田さんは憧れの人。音楽のなかでどの立ち位置でもいけるじゃないですか。プレイヤーとしても、シンガーとしても存在感がある。
小田:嬉しい……。沙良ちゃんも歌のなかでいろいろな表情を出せるし、いろんな存在になれる人だなと思っていて、どこか演じているような感覚もあるのかなと思っていました。
吉田:そうなんですよ。音楽に合わせて演じてしまうというか。昔はそこがコンプレックスだったんです。だから核となる自分を持っている人に憧れます。今はニュートラルになって演じることが少なくなりましたけどね。といっても子育てがあって悩んでる暇がないからなのかも。
——おふたりの新譜はどちらもユニークなタイトルが付いていますが、これについては?
吉田:タイトルは相方の角ちゃん(モノンクルのメンバー・角田隆太)が付けたんですけど、そのフレーズが「奇跡」という曲の中にあるんです。歌詞の最後の3行が思い浮かばなくて、レコーディングのギリギリに浮かんだのが「僕ら行き止まりで笑いあいたい」という言葉でした。
現代のフィルターバブルのなかで、誰もが同じ景色を共有することができず、同じ意見を持つことが難しい。でも奇跡みたいに人間同士が繋がる瞬間とか、わかり合える瞬間もある。この行き止まりみたいな世界で笑い合いたい、という意味があります。
あとは活動のなかで順風満帆じゃなかった部分もたくさんあったし、「もう先がないかも」ということもありました。でも、それでも先があったんです。だから暗い言葉に聞こえるかもしれないけど、ポジティブなタイトル。
小田:モノンクルの文章タイトルシリーズ、いいよね。
吉田:英語のタイトルにする、という話もあったんですけど、何となくそのシリーズがいいなと。
――『まにまに』は同名曲から付けていますね。
小田:最後の最後にできた曲で、そこからタイトルを付けました。3月の3日間合宿の1日目に越智(俊介)君と(石若)駿がリフ(短いパターン)を使って遊んでいたんです。それがすごくよくて、頭に残っていたんですよ。
だから最終日の最後残り数時間で、形も決めないまま「行けるところまで行く!」みたいなベースとドラムのセッションを録りました。それにコードとメロディを付けるという、今までにない作り方で完成したのが「manimani」。
吉田:そうだったんだ。
小田:後日フリースタイル的に家で歌を重ねたときに出てきたのが「まにまに」という言葉だったんですね。何か「まにまに」って言ってるなあ……と思って、後から意味を考えていったんです。
吉田:最終的にどんな意味に?
小田:私たちのバンド名って「CRCK(CRACK=ひび割れ)」と「LCKS(LUCKS=幸運)という言葉で構成されているのですが、「まにまに」って、どこかひび割れ、裂け目のような感じもあるし、揺れるカーテンと窓の隙間のような、内と外のあいだに思いを馳せるようなイメージ(間に間に)もある。日常に追われてしまうときもあるけど、気持ちだけでも空想や旅に出るようなことを大切にしたくて。
この記事を書いた人
音楽家/記者。1987年生まれのゆとり第1世代、山梨出身。明治大学文学部卒で日本近代文学を専攻していた。自らもサックスプレイヤーであることから、音楽を中心としたカルチャー全般の取材に携わる。最も得意とするのはジャズやヒップホップ、R&Bなどのブラックミュージック。00年代のファッション雑誌を愛読していたこともあり、そこに掲載されうる内容の取材はほぼ対応可能です。
Website:https://smartmag.jp/
お問い合わせ:smartofficial@takarajimasha.co.jp
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