ウエストランド井口「いい加減、僕を信じろよ!」お笑い界の未来を語る“ひねくれ大正論”が痛快すぎる
執筆者: 音楽家・記者/小池直也
日本全体が他人と協力する時代になってほしい
――取材中も炸裂している井口さんの毒舌についてなのですが、ためらいや難しさを感じたことはないですか?
井口:毒舌という意識がないですからね。世の中をよくしたいというか、本当のことを言ってるだけなんです。むしろ1番優しいかもしれないですよ。「みんなと仲良くしましょう」とか「義理人情を大事にしましょう」と言っている僕よりも、自分のネタをやってすぐ現場から帰るやつとかのほうが怖い。
世の中やお笑い界が平和になったら言うことがなくなる可能性はあります。でもそうなる気配がないので言い続けるしかないですね。だっておかしいじゃないですか、バッテリィズのエースとか(令和ロマンの)松井ケムリが結婚していたとか。噓を付いていたことは謝らなきゃ。それを疑問に思う人がいないのがおかしいです!
――SNSで発言が切り取られることに不安は?
井口:ありますよ。切り取られて炎上するのでSNSでは言いません。でも連載で毒づいたところで誰も注目していないんですよ。治外法権みたいな(笑)。なぜか大丈夫なんですよね。そういう意味で「今月のお笑い」はいいなと思います。誰も気にしてないから。
――それは動画全盛の時代に文字媒体で出す意味のひとつなのかもしれません。
井口:結局、目先のお金に目がくらんでいるんでしょ。再生数で稼ぎたいから動画にいく。あと僕がやっているポッドキャスト「オトステ」もどんなに言いたい放題でもネットニュースにならない。
やっぱり文字になっていない媒体や、文字数が多いコンテンツは拾うのが面倒なんだと思います。他のどうでもいい話題ばかりで探すのを諦める気がします。
――「現代人は長文が読めない」と言われている風潮を逆手にとった作戦ですね。ところで連載のなかではSNSやTikTokの話題が出てきますが、テクノロジーといえば井口さんはChatGPTなど生成AIについて脅威を感じていますか?
井口:僕は使っていないのですが、まだネタは作れないんじゃないかなと思います。もっと精度が上がればわかりません。でも今はまだ人間の機微はわからない気がします。もしAIが考えてくれたら助かるとは思いますけど。
いや、でも「AIが作った」という段階でつまらないじゃないですか。ネタ作りって面倒くさいんですよ。本当に嫌だけどやってるから面白い。
――最近はNON STYLE石田明さんの『答え合わせ』、 令和ロマン・髙比良くるまさんの『漫才過剰考察』 などの考察本も出ています。これと『今月のお笑い』を比較して思うことなどは?
井口:本当にダラダラ喋ってる雑談なので、全然考察みたいな感じはないと思います。ただ、みんな考察が好きなんですね。お笑いって誰でもできるじゃないですか。だから「こういうものだ」と言いたくなったり、「もっとこうしたほうがいい」と打ち負かしたい自称僕のファンのバカもいますね。
「皆目見当違い」と言ってM-1優勝してるのに、2年経ったら忘れて言ってくるんですよ。「それを見て好きになったのに、なぜそれをやるんだよ!」という。どうしようもないですね。でもだからこそ僕が毒舌を発揮できるので、一生打ち解けることはないと思います。
――太田さんとの鼎談でも「お笑いの学問化」についてのトピックがありますが、そういう流れのなかで未来のお笑いに望むことは?
井口:世の中は「老害」と言いたがるじゃないですか。でもそんなことは気にしなくていいし、年齢に関係なく「本来お笑いってこういうものでしょ」と言い続けてるだけ。効率を求めず、自分の出番が終わったら帰るとかではなく、日本全体が他人と協力する時代になってほしいですね。
Profile/井口浩之(いぐち・ひろゆき)
1983年5月6日生まれ、岡山県出身。血液型はB型。中学、高校の同級生だった河本太と2008年11月にお笑いコンビ・ウエストランドを結成。フリーで活動を開始し、オーディションライブから預かり期間を経て、2011年4月の「オンバト+」(NHK総合)に初出演&初オンエア獲得と共に正式にタイタン所属となる。結成5年目で「笑っていいとも!」(フジテレビ)のレギュラーに抜擢され、最終回まで不定期で出演した。2012年から3年連続で「THE MANZAI」認定漫才師(予選通過50組)に。2020年に「M-1グランプリ」で初めての決勝進出を果たし、翌年は準々決勝敗退を喫したものの、2022年に優勝して18代目王者となった。
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撮影=西村満
インタビュー&文=小池直也
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この記事を書いた人
音楽家/記者。1987年生まれのゆとり第1世代、山梨出身。明治大学文学部卒で日本近代文学を専攻していた。自らもサックスプレイヤーであることから、音楽を中心としたカルチャー全般の取材に携わる。最も得意とするのはジャズやヒップホップ、R&Bなどのブラックミュージック。00年代のファッション雑誌を愛読していたこともあり、そこに掲載されうる内容の取材はほぼ対応可能です。
Website:https://smartmag.jp/
お問い合わせ:smartofficial@takarajimasha.co.jp
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