「自分にしか撮れない写真はない」――そう断言するマルチクリエイター・古屋呂敏が見つけた“自分にしか見えない世界”
執筆者: ライター・コラムニスト/ミクニシオリ
ゴールから逆算しない人生でしか見えなかった景色
――俳優、ファッションモデル、フォトグラファー、映像クリエイター、いろいろな活動を行う自身の活動については、どのように考えているのでしょうか。
自分には向いているなと思っていますね。どれか一つだけを極めていれば、もっと早く高みに上り詰められるのかもと思うこともなくもないですが……どの活動も、自分の強い興味関心からスタートしているので、曲折したとしても目の前の仕事を楽しみたいという気持ちがあります。
アメリカの大学に通っていたこともあって、いろいろな価値観に触れる中で、若いうちから型にハマる必要はないと考えることができたのもあります。世界中から人が集まる場所では、当たり前なんて存在しなかった。周囲や社会の求めるやり方に合わせず、自分のやりたいことをやる。僕にとっては心地よい活動のあり方です。
だからこそ、俳優業にもフォトグラファー業にも、優先順位はありません。全部やりたいから、やる。だけどどれももっと上手くなりたくて、いつも自分に不満を抱えてもいます(笑)。この負のエネルギーが、僕のガソリンなんですね。
――では、古屋さんにとってのゴールはどこにあるのでしょうか。
どうでしょう。撮りたい画が撮れたときもそうですが、僕にとってはそれが「誰かに喜んでもらえたとき」でもありますね。今日もそうですが、僕に会いに来てくれたファンの人が、展示を見て泣いてくれたり、感謝を伝えてくれたり……ちょっと話が逸(そ)れますが、僕はファンの人との交流が好きなんです。どこから来てくれたのか、どんな仕事をしているのか。自分を好きだと言ってくれる人がどんな人なのか知りたいし、自分がいない場所で生活している人の人生に触れることは、僕にとってとても興味深いことです。
やっぱり僕は好奇心に突き動かされるまま、ただ進んでいる感覚が強いです。それは別に悪いことではなくて、その先で知ったことが、次の撮影や演技に生きることもあります。
――やはり古屋さんにとっては、チームでの仕事や人との交流、そこから生まれる感謝や、喜びの言葉が、原動力になっていて、先のことから逆算して行動しているわけではないということなのでしょうか。
今の時代って、情報はいくらでも入ってくるじゃないですか。生成AIを相手に相談すれば、人生設計だって考えてもらえるけど、それじゃつまらない。僕はフォトグラファーとして「自分にしか撮れない画なんてない」とも考えています。だって、カメラの知識や絶景情報は、ネットを通じて手に入れることができてしまうから。いい作品を作るだけでは自分らしさは手に入らないんです。
だからこそ、継続が大切だと思うんです。自分にしか撮れない写真に自信を持つんじゃなくて、続けてきた自分に自信を持つことが大切です。そうすれば、どんな世の中になっても自信を失わずに済むと思います。
――自分にしか撮れない写真はない……では古屋さんの言う自分だけの焦点距離や、自分だけの世界はどうやって見つければいいのでしょうか。
それは、継続の中で見えてくるときがあると思います。今回の写真展でも、写真を選定してみたら、選んだ写真に映っているモデルさんは、自分と付き合いが長い子ばかりでした。
目の前の人のことを知ろうとする気持ちは、役者である自分が培った経験から生まれたものです。役に向き合う中で、一つのセリフのために、その役柄のことを突き詰めて考えた経験。これがあったから、目の前のモデルさんの気持ちを考えて、コミュニケーションしていく中で、僕が指示した「作り物の表情」ではなく、モデルさんの内から出た「素顔」を撮影できることがあるんです。
役者をしていたから、撮られる側の気持ちが分かるし、フォトグラファーをしているから、役を演じるときに、企画者側の意図を深く考えることができる。結局のところ、続けてきたことがリンクして、今の僕がいる。その自分を信じることで、自分にしか見えない世界が見つかることがあると思います。
――ストイックな古屋さんらしい、自分らしさの見つけ方ですね。
僕自身、これからどんな職業人になっていけばいいのか、まだ試行錯誤を繰り返しています。若い方にとっても、今の時代をどう生きるかは、とても難しい課題ですよね。
僕にとっては、今回の写真展も自分が持つべき軸を発見するきっかけになりました。ただ写真を飾るだけでなく、オーディオをつけたんですが、それは写真を見に来てくれた人にできるだけたくさんのものを持ち帰ってほしいと思ったから。僕はやっぱり、誰かのために活動しているんだと思い知りましたね。
僕にとって、誰かの人生の隙間に入れることは幸せなことですが、何が喜びとなるかは、人によって違うと思います。それが何かを見つけることで、自分だけの世界が見えてくるし、自分らしさが何なのかを、発見するきっかけになる。自分だけの世界を見つけるまでに、時間はかかるかもしれないけれど、諦めずに継続してみてほしいですね。
今回の展示写真は、すべて愛用の「ニコン Zf」で撮影。写真展の開催を記念して、写真集 「MY FOCAL LENGTH」も販売中。
THE GALLERY 企画展・古屋 呂敏「MY FOCAL LENGTH」
会場:ニコンプラザ東京 THE GALLERY
会期:2025年6月17日(火)~2025年6月30日(月) 日曜休館
時間:10:30~18:30(最終日は15:00まで)
会場:ニコンプラザ大阪 THE GALLERY
会期:2025年7月10日(木)~2025年7月23日(水) 日曜休館
時間:10:30~18:30(最終日は15:00まで)
https://nij.nikon.com/activity/exhibition/thegallery/events/2025/20250617_tgt.html
古屋呂敏写真集
「MY FOCAL LENGTH」
https://shop.genic-web.com/products/my_focal_length-1
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この記事を書いた人
ファッション誌や週刊誌、WEBメディアなどで幅広く活動。女性向けのインタビュー取材や、等身大なコラム執筆を積極的に行う。いくつになってもキュンとしたい、恋愛ドラマと恋バナ大好き人間。
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お問い合わせ:smartofficial@takarajimasha.co.jp
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