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【小栗旬インタビュー】コロナ禍の“名もなきヒーローたち”を描いた主演映画『フロントライン』にかけた思い

執筆者: ライター・エディター/佐藤玲美

映画『フロントライン』より/© 2025「フロントライン」製作委員会

映画『フロントライン』より/© 2025「フロントライン」製作委員会

DMATの方々の人間味あふれるギャップについて

――ちなみに作品に入る前にDMATという存在は知っていらっしゃいましたか?

小栗「医師や看護師で組織されたボランティアの方々が活動されている、くらいしか知識がなかったですね。災害が起きたときにそういう活動をされる方々がいることは認識していましたが、その団体がDMATで具体的にどんな活動をされていたのかについては知らなかったです」

――私たちもこの作品で初めてDMATという存在を知りました。

小栗「僕らがこの作品を撮影したのが2024年の1月、2月なんですが、そのタイミングで1月1日に能登半島地震が起きてしまったんです。なので、僕らが撮影を始めた頃には、DMATのみなさんは能登に入って活動をされていたんですね。それを見て改めてすごいなと感じました」

――能登でも(結城のモデルとなった)阿南先生は、活動されていたんですか?

小栗「作品と同じように洋介君の演じる仙道のモデルになっている近藤先生がすぐに能登の現場入りして、阿南先生が本部で指示を出すというようなことをされていたとお伺いしました」

――窪塚さんが演じた仙道は、かなりファンキーというか、型破りなキャラクターと言う印象を受けました。モデルとなった近藤先生もそういう方なのでしょうか?

小栗「洋介君が演じている100倍くらい変わった人です(笑)。ただ、命を扱っている人たちなので、とにかく頭がよくて的確。それでいて達観している部分もあったりとか。DMATの方々にお会いしたときは、「みなさん怖い目をしているな」という印象を受けました。やはり命の最前線で戦っている方々なので、そういう環境に身を置いている人にしか出せない雰囲気は感じましたね。

でも、災害の最前線で戦っている中でも、現場を離れた時間にはお酒を飲んでリラックスする時間もあったりして。なので、先生方に先日お会いしたときも“能登に行くことがあったら、おいしいお店をいっぱい知っているので言ってくださいね”ってお声がけいただいたり。そういうギャップも人間としてすごく面白いし、魅力的だなと感じました」

――そのような人間味があふれるお話を聞いて、(厳しい環境の中でもそういう時間を持てることに対して)ちょっとホッとしました。

小栗「今回の作品で“私は人道的に正しいと思ったことをやっている。人道的に考えたらこうなったんだ”というセリフがあるんです。それを(仙道のモデルの)近藤先生は“あの言葉は阿南先生が言ったんじゃなくて、僕が言ったんだ”と。映画では小栗さんのセリフになっていたということをずっとおっしゃっていて(笑)」

――(笑)。史実に基づいてと言っても、いろいろ調整はあるでしょうからね……。

小栗「“あれを言ったのは僕のはずなんです”ってずっとおっしゃっていましたね(笑)」

――結城とともに国との調整を行う厚生労働省の役人・立松は、松坂桃李さんが演じてらっしゃいました。役人というと、杓子定規でお堅いイメージがありますが、船の状況に応じて、結城とともに人命救助に尽力をされていました。助けるために、役人らしからぬずる賢さや腹黒さなども発揮されていましたが、そういった役人さんが実際にいらっしゃったということなのでしょうか?

小栗「そうですね。松坂君の役に関しては、二人ぐらいの方がモデルになっているのですが、お一人は本当にアグレッシブで。“怒られるのは俺じゃないでしょ”くらいなテンションで臨機応変さを持っている方だったそうです」

――いろいろな立場の方々が、人命救助という目的に向かって、厳しい状況を打破していったということなんですね。

小栗「プロデューサーの増本(淳)さんが、みなさんにさまざまな取材をして、この作品にたどり着いているんですけど、それでもやはり描かれた物語は実際よりも少しオブラートに包まれている部分もあって。本当はもっと過激なことも起きているんですね。この船って、日本に到着した時点で、ここの埠頭までは日本だけど、この船(の停泊している場所)は海外なので、日本が検疫に入るというだけでも、さまざまな許可が必要になるんです。

DMATの人たちが臨時検疫官として船に乗り込むには、本来なら国を通して1回ずつ許可を取るために時間がかかるんだけど、そんなところに時間をかけてられないって押し通してしまったりとか。みんなで作品に入る前、顔合わせをしたときに話したことがあって。『フロントライン(最前線)』という言葉って、戦争を思い浮かべる言葉だけど、実際にこの作品の舞台となったあのときのあの埠頭は、間違いなく戦争状態だったというか。いろんな手続きを踏んでいたら人が死んでしまうから、そんなことをしていられないという判断で全てが進んでいったことは、やはりすごい出来事だったなと思いましたね」

――そんな大きな出来事が、こんな早いタイミングで映画化されるというのも異例なことではないかと思います。ただ、コロナ禍を超えて、あまり時間は経っていないですが、すでに遠い昔の記憶となり、平穏な日常を過ごしている人が多いのも実情ではあります。

小栗「やっぱり今思い返してもあの時期ってちょっとおかしかったですよね。みんなマスクをして、人に近づいちゃいけないって異常な事態になっていたのに、5年経ったらすっかり忘れて日常を取り戻していて。あの頃は、いつ日常が戻ってくるのかっていう不安の中で過ごしていたのに」

この記事を書いた人

東京在住のライター・エディター。『smart』『sweet』『steady.』『InRed』など、ウィメンズ、メンズを問わず様々なファッション誌やファッション関連のwebでライター&編集者として活動中。写真集やスタイルブック、料理本、恋愛心理、インテリア関連、メンタル&ヘルスケアなどの本の編集にも携わる。独身。ネコ好き。得意ジャンルはファッション、ビューティー、インテリア、サブカル、音楽、ペット、料理、お酒、カフェ、旅、暮らし、雑貨など。

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