「“馬鹿”って言われるくらいクソ真面目にやることが大事」アントニオ猪木の教えがあったから戦国プロレス時代を生き抜けた前田日明と藤原喜明が大放談した書籍『アントニオ猪木とUWF』(宝島社)
執筆者: smart編集部
昭和と平成のプロレスを語る上で欠かせない団体UWFが、今年設立40周年を迎えた。アントニオ猪木の新たな受け皿として設立されたUWFの中心人物だった前田日明と藤原喜明が、タブーNGなしの大放談を繰り広げた『アントニオ猪木とUWF』から一部を抜粋して2回に分けてご紹介。2回目の今回はアントニオ猪木からの“教え”について。(全2回の2回目)
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「馬鹿」って言われるくらいクソ真面目にやることが大事
――前田さんや髙田さん世代の新日本のレスラーは、道場での練習がプロレスラーとしての誇りになってたわけですよね。
前田日明(以下、前田) いや、最初は誇りも何もなくて、俺はプロレス界のことが何もわからず真っ白のまま入ったんだよ。それで新日本に入って色をつけられて、それが「プロレス」だと思ってるだけの話でね。もし、今みたいなプロレス界に入ってたら、きっと〝プロレスごっこ〟を俺もやってるよ。俺が入った時のプロレスっていうのは、強くなるために道場で死ぬほどキツい練習をするっていう、そういうものでしかなかったんだよ。誇りも何も関係ない。それが当たり前だったんだ。
――それが、猪木さんの言う「プロレス」だったわけですもんね。
前田 だから俺は猪木さんの言うとおりにやってるだけなのに、なんで怒られるのかなって(笑)。
――でも、その猪木さんの教えっていうのは、その後のUWF、総合格闘技に確実につながったわけですから、すごくいい教えですよね。
前田 でしょ? いろいろ言われたけど、こうして今があるのは猪木さんの教えのおかげだから。猪木さんに言われたとおり、バカ正直にやりましたよ。1から10までね。
藤原喜明(以下、藤原) 昔の新日本の練習といえば、基礎体力運動と関節技。間違っても飛んだり跳ねたりの練習はしたことがない。
前田 俺らの世代って、〝プロレスの練習〟をしたことなんか1回もないよ。かろうじて受け身の練習はよくやったなっていうぐらいで。
藤原 ちゃんと受け身を取らないとケガをするからな。これも闘いにおいて、自分の身を守るために大事なことだから。
――ロックアップしてフライングメイヤーみたいな、いわゆるプロレスの〝型〟のようなものも教わらないわけですか。
前田 あんなのはリング上で培うものだよ。
藤原 今の連中が〝プロレスの練習〟だと思ってることなんか1回もやってないよ。あんなもん誰でもできる。だって学生プロレスでもできるんだから(笑)。
――たしかに、プロじゃないとできないことをやってるわけですよね。
藤原 そうそう。
前田 だから今のプロレスを見て思うのは、〝決め事〟ばっかりやってるんだよ。「お前の母ちゃんデベソ!」みたいなしょうもないハイスパットをダラダラとやってさ。たまにどっちかが間違えて失敗してフニャフニャってなる。俺らの時もたぶんそういうことはあったんだよ。あったんだけど、普段から闘うだけの練習をしているからおかしなことにはならない。
藤原 おいおい、あまりボロクソ言うなよ。また敵をつくるから(笑)。
――昔は変な動きをしたら、猪木さんも小鉄さんも試合中だろうがリングに怒鳴り込んできたんですよね。
前田 前座の試合ってドロップキックを2回やったら怒られたんだよ。あとはもうレスリングだよ。打ち合わせなんてまったくなかったよ。全部アドリブだよ。
藤原 控室にいたら猪木さんが、「藤原、行け!」って言うから、「えっ、行けって何するんですか?」って聞いたら、「ぶん殴ってこい!」って。試合中にだよ(笑)。
前田 プッシュアップの棒でボコボコにやられるんだよ。しかも、それで済むと思ったら大間違い。試合後、大会が終わるまでスクワットをさせられるんだよ。で、俺がそれをリングスでやったら、「前田はひどい!」「前田はなんてことをするんだ!」って。
――前田さんとしては新日本の正しい伝統をやっただけなのに(笑)。
前田 新日本なんかもっとひどいじゃん。ラワンの棒で殴ったら顔がこんなんなるんだよ。坂田(亘)なんか顔は全然腫れてないじゃん。
藤原 今だったら毎日が犯罪だったよな(笑)。
前田 それで怒られたからって「ひどいな」って陰で思ったことは1回もないよ。「なんで怒られたんだろう?」「どこが悪かったんだろう?」って考えて、聞きに行ってたよ。「どこが悪かったですか?」って。俺、すげえ真面目だったよ。
藤原 昔は緊張感を保つために殴ったりすることがあったんだよ。要するに巡業が続いてシリーズも後半になると、だんだん疲れてきて練習もダラダラしてくるんだよね。そういう時に気が張ってないとケガをするし、お客さんにも見透かされる。猪木さんは会場入りしてそういう空気を感じると、「集合!」って言って選手を1列に並ばせて、「てめえら、何ダラダラしてるんだ!」って殴るんだ。
――そうやってピリッとした空気に変える、と。
藤原 ただ、全員殴るわけじゃなくて、誰か一人が代表して殴られるんだよね。だから俺なんか「集合!」って号令がかかると、「今日も俺が殴られるんだな……」って思うんだけど、前田なんかにはよく、「猪木さんはいちばんかわいいヤツを殴るんだ」って言ってたんだよ。
前田 言ってましたね(笑)。
藤原 そしたらある日、前田は遠くで真面目にスクワットやってたんだけど、猪木さんから「並べ!」って声がかかったら前田がバーッと走ってきて、猪木さんがちょうど振り向いた時にコイツが目の前にいたからぶん殴られたわけだよ。そしたらあとでコイツが俺のところに来て、「藤原さん、今日は僕がいちばん先に殴られましたよ!」って(笑)。
――「猪木さんに認められました」と(笑)。
藤原 走ってこなけりゃ殴られずに済んだのに、かわいいもんだよ(笑)。
前田 俺、すげえクソ真面目にやってましたよ。だからいつも「馬鹿」とか「トンパチ」って言われてたけどさ(笑)。
藤原 でも、「馬鹿」って言われるくらいクソ真面目にやるってことは大事なんだよ。プロレス界みたいな理不尽な世界、利口じゃ務まらねえよ。
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