【らんまん】“おゆうさん”山谷花純「見ている人にも伝わる、心温かくなる『いってらっしゃい』を」
執筆者: ライター/東海林その子
smart Webで映画レビュー&対談企画の『All is True』を連載中の演技派若手女優・山谷花純さんが、現在、連続テレビ小説『らんまん』(NHK)に主人公が住む長屋の住人・宇佐美ゆうとして出演中。「今の自分だからできる」と感じた役との巡り合わせや、撮影を通しての気づきについて話してくれました。
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台本を読んだときに
「過去もあるから今の自分がある」と笑う
彼女の姿からすごく勇気をもらった
――先日から山谷さんが登場する『らんまん』の東京編が放送中ですが、出演が決まったときのことは覚えていますか?
山谷花純(以下、山谷) 去年の秋くらいにお母さんと妹とごはんを食べているときに、マネージャーさんから「『らんまん』の話が来ていて、決まりそう」と連絡をいただいて。そのときはまだ確定ではなかったんですけど、すごく嬉しくて「このまま何事もなくちゃんと台本が届きますように」とお母さんと妹と3人で胸の前で手を合わせてお願いしていましたね。GOサインが出るまではドキドキしていて、台本が届いて自分の名前が書かれているのを見たときに「あー、出演できるんだ」と実感が湧きました。
――山谷さんが演じるゆうは、長屋の中でもしっかり者で、みんなの背中を押してくれるような強さのある方だなと思いました。
山谷 そうですね。長屋のみんなはいろんな過去を抱えているけど、根本的に人が大好きで、誰かの役に立ちたいとか、この現代社会では忘れてしまっているような人との繋がりをものすごく大切にしていると思うんですよ。そんな中でおゆうさんは助けてほしいときに助けてくれる人がいなかったから、誰かの助けになりたい気持ちがある強い人なのかなと演じながら思っていて。そんな中で過去に対してのトラウマだったり、自分の弱さを見せてしまったら明日を生きられないんじゃないか、積み上げてきたものが崩れてしまうんじゃないかと考える部分があって、みんなのことが大好きですべてを知ってもらいたいけど、傍(はた)から見たら「この人、本心はどこなんだろうな」と思われてしまうような、無色透明な防御壁を作ってしまう女性なんだろうなと思いますね。
――今後、そういった本心が見えてくる場面もあるのでしょうか。
山谷 ある週でおゆうさんの過去が明かされるんですけど、そのシーンの台本を読んだときに“なぜ人と近すぎない距離感を保つのか”という理由がわかって、すごく腑に落ちたんです。それでも笑って「私は今が一番幸せだ」と言う彼女の強さに勇気をもらったし、何かを手にするために何かを失って前に進むのはイヤだなと思っていたけど、歳を重ねていくとそうもいかなくなってくるじゃないですか(笑)。そういう変化に自分の気持ちが追いつかなかったときにちょうどこの役をいただいて、台本を読んだときに「過去もあるから今の自分がある」と笑う彼女の姿からすごく勇気をもらったから、視聴者の方々にもその勇気を届けないといけないなと思って。だから過去がわかるにつれて演じるのはすごく緊張したし、「この素敵なセリフを、果たして私はおどおどせずに、自信を持って地に足をつけて言えるのだろうか」と考えながら、役と一緒に成長させていただいている状況ですね。
――インスタグラムの投稿で「今の自分だから演じられる役」とおっしゃっていたのも、今お話ししていただいたことに繋がるんですね。
山谷 そうですね。自分の中で今までやりたかったことがちょっとずつ叶ってきて、これまで大切にしてきたものを一回リセットして縛られない状態になったら、自分は人からどう見えるんだろうなと思って、去年、私生活などをシンプルにしてみたんですよ。何も考えずにぽいぽいぽいぽいとゴミ箱に放り投げてしまって、「やっぱり必要だったのに」と思うような人間関係や物もあったんですけど、でも時間を重ねた今はそれが正解だったと思うし、その自分の中の断捨離をやった瞬間に『らんまん』のお話をいただいたんです。そうやって前へ進むきっかけが向こう側から寄ってきてくれたり、手を差し伸べてくれる出来事が続いて「役って本当に巡り合わせだな」と思ったし、私はものすごく運がいい人間だなと感じるんですよね。おゆうさんも過去を乗り越えて、今を楽しんで未来を見据えている役どころなので、役と一緒に新しい扉を開けられる、今の自分だからできる役なんじゃないかなと台本を開いたときに思ったんです。
――タイミングや巡り合わせの面白さ、不思議さを感じますね。
山谷 何も手放さずにやりたいことができたら一番いいんですけど、そこまで器用でもないし、自分が自分に飽きてしまって(笑)、すぐにいらないと思っちゃうし、演技以外だと続かないことが多いんですよね。だから一回リセットしたのはすごくよかったのかなと今となっては思います。ただ最初に断捨離をしたときは何もなくなっちゃって、隙間風がすごく強く吹いて、手が冷たいなと思っていたんですよね。でもその結果が形として表れると自信になって、そのひとつが『らんまん』で。だから決まった時点で自分の中でひとつ乗り越えた感覚があったし、自信にもなったかもしれないし、強くさせてもらったなと思います。それに断捨離をして自分が本当に見たかったものはなんなんだろうと考えて、好きなものや好きなごはん、好きな色だったり、自分の本質を久しぶりに知る時間を持つことが私にとってはすごく新鮮で、今すごく楽しいんです。
――1月から撮影をされているそうですが、長く時間をかけての撮影だと、他のキャストさんとの関係性も作りやすい部分もあるのでしょうか。
山谷 朝ドラも大河もそうなんですけど、神木(隆之介)くんはずっと現場にいて、でも撮影は主人公の地元の高知、東大、長屋と分かれているんです。私たちは長屋以外の方たちには全く会っていないので、出来上がった作品を見て「大学ってこんな感じなんだ。台本を読んで子うさぎを想像していたけど、こんな大きかったんだ!」みたいに(笑)、びっくりすることはありますね。それに撮影の周期があって、長屋も2週間撮ったら次は3週間後とか、つかず離れずの親戚みたいな感覚で撮影しています。撮影を重ねるごとに距離は縮まってはいるんですけど、ぐっと縮まるとは違っていて、それこそ長屋のみんなが協力して信頼し合ってはいるけど、どこか緊張感もあるような部分を表現するのにはすごくいい環境だと思いますね。慣れだけになっちゃうと気が緩みすぎちゃう部分があると思うので、もの作りに特化している人たちが集まって、いいプロフェッショナル感でやれています。これから東大のシーンでは植物学のセリフが多かったりして、ちょっと難しくなってくる部分もあるので、長屋のシーンでの共通認識は「作品の中で、箸休めになるためにはどうしたらいいか」だと思います。お芝居の相談はないんですけど、自然とそういう認識があるから成り立っているんだろうなと思いますね。
――その中で、これから長屋のみなさんの人となりや背景がだんだんと見えてくるんですね。
山谷 それがみんないきなりぶっこむから面白いんですよ。予兆もなく「実は……」と始まるから、「え、今ここで話すの?!」みたいな(笑)。主人公の槙野さんは裕福なおうちで育って、東京という広い世界で長屋の人たちと出会って、新しい価値観を手に入れて成長していきますし、逆に長屋のみんなも槙野さんのキラキラとした純粋な眼差しや、植物に対する愛を近くで感じるうちに影響をもらって、すごくいい相乗効果が生まれていく場所なんです。なので、長屋の人たちの変化も楽しみにしてもらえたらなと思います。
――長屋でのシーンでのそういったみなさんの交流は、見ていてとても心が温かくなります。
山谷 それこそ演じていて思ったのが、東京に来てからは隣に誰が住んでいるのか知らないし、マンションですれ違った方に「おはようございます」と言っても返事をしてくれなかったりするんですよね。でも地元の宮城だと、周りに誰が住んでいるか知っているし、通学中にすれ違うおばあちゃんとかに「おはよう」と言うのが当たり前で。この『らんまん』という作品は「おはよう」というセリフから始まったり、「いってらっしゃい」で終わるシーンが多くて、すごく大切なものを久しぶりに感じているなと思ったんですよね。簡単な言葉でいうとエモいというか、「懐かしい。なんだこの忘れてしまっていた切ない気持ちは」と撮影しながら大切なものに気づかせてもらっていますし、きっと見ている人もそれを感じているんじゃないかなと思います。
――確かに、作中で「いってらっしゃい」というセリフがあると、自分に言われているような嬉しい感覚がありました。
山谷 嬉しいですよね。テレビの電波を超えて、画面を超えて、見ている人にも届けられるような「いってらっしゃい」を心がけている部分はありますね。
――これからも楽しみにしています! ちなみに出演が発表された際に、宮澤エマさんと「ほんの少しでもお話ができたら嬉しいです」とコメントされていましたが、会うことはできましたか?
山谷 多分もう会えないです(笑)。1回くらい撮影現場で会えるかなと思ったんですけど、(浜辺美波さん演じる)寿恵子さんがお住まいになられていて、(宮澤さん演じる)みえさんがいらっしゃる白梅堂と長屋のセットの撮影が被ることがなくて。私たちの撮影の次の日にエマさんがいらっしゃるという香盤表の文字だけは見ているんですけど、これは会えないまま終わるなとうすうす感じています(笑)。
――奇跡が起きて、お会いできることを祈っています……! 撮影が続くあいだに気分転換をしたり、リフレッシュのためにすることはありますか?
山谷 私、最近リフレッシュ方法を新しく見つけたんですよ。それこそ映画やドラマを見たり、本や漫画を読むのが大好きなんですけど、エンタメに触れると仕事が一瞬チラつくのが一個のストレスで、楽しみきれない部分があったんですよね。それで子どもの頃って何が好きだったんだろうと考えたら、恐竜や化石とかが大好きだったんですよ。なのでこの間、恐竜展に行ったら仕事のことを一切考えずに「なんだ、この生き物!」と骨を見て感動して、説明書きを読んだり音声ガイドを聞きながら、子どもに戻ったように楽しめている自分がいたんです。あとは恐竜のフィギュアのガチャガチャをしたり(笑)。科学館とか子どもの頃に連れて行ってもらった場所って、大人になったときにめちゃくちゃリフレッシュになるのを発見して、『らんまん』のテーマと近くなってしまうけど野草園も行ってみたいし、今一番行きたいのは福井の恐竜博物館です(笑)。
――大人になったからこそ、深く知れる部分もありますもんね。
山谷 (『らんまん』で共演中の)大東(駿介)さんとも恐竜の話をするんですけど、お子さんが恐竜に興味があって、自分が子どもの頃に好きだったことを一緒に学べる楽しみもあるみたいですね。私は昔から、どちらかというとお人形遊びよりも恐竜が好きだったんですよ。『ウルトラマン』もウルトラマンより敵が好きなちょっとマニアックな姉妹で、いまだに母や妹と恐竜展の話をしているので、他にもそういうトピックを探したらいっぱい出てくるんだろうなと考えたら楽しみですね。それに今年は『ジュラシック・パーク』が30周年なので、恐竜ブームが来ると思います(笑)。
(了)
Profile/山谷花純(やまや・かすみ)
1996年12月26日生まれ。宮城県出身。みやぎ絆大使。2007年、エイベックス主催のオーディションに合格し、翌年ドラマ『CHANGE』でデビュー。18年、映画『劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』で末期がん患者役に丸刈りで臨み注目される。また、主演映画『フェイクプラスティックプラネット』がマドリード国際映画祭2019最優秀外国語映画主演女優賞を受賞した。22年放送のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では比企能員の娘・せつ役を好演し、今後が期待される女優。主な出演作は、映画『告白』『寄生獣』『耳を腐らせるほどの愛』『人間失格 太宰治と3人の女たち』『天間壮の三姉妹』、ドラマ『あまちゃん』『ファーストクラス』『私の正しいお兄ちゃん』『liar』、舞台シェイクスピアシリーズ『ヘンリー八世』『終わりよければすべてよし』など。23年春の朝ドラNHK連続テレビ小説『らんまん』では主人公の万太郎の住む十徳長屋の住人で小料理屋の女中、宇佐美ゆうを演じている。朝ドラは『おひさま』『あまちゃん以来、3度めの出演。
山谷花純公式インスタグラム:@kasuminwoooow
山谷花純公式ツイッター:@minmin12344
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写真=大村聡志
スタイリング=髙橋美咲
ヘアメイク=永田紫織
インタビュー&文=東海林その子
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この記事を書いた人
出版社を経てフリーライターに。ファッション誌、エンタメ誌、web媒体などでインタビュー・執筆。smart本誌では田中みな実さん、山本彩さんの連載などを担当。アイドル、アニメ、食、ドラマなど幅広く興味あり。最近は韓国語を勉強中。
Website:https://smartmag.jp/
お問い合わせ:smartofficial@takarajimasha.co.jp
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