【インタビュー】国内eスポーツイベントの頂点へ。RAGE総合プロデューサー大友真吾が掴んだ確かな手応え
ゲーム人口はプレイヤー数、視聴者数ともに年々うなぎのぼり。世界のeスポーツ上位10チーム(または組織)にいたっては、その価値評価額が平均で約450億円と、今後ますますの成長が期待されまくっている国際的市場、それがeスポーツの今の立ち位置です。しかしその中にまだ日本チームの名はなく、「これじゃあいかん!!」と(まぁほんとにそう言ったかは知りませんが)とにかく、好きなものに心底夢中になれる負けず嫌いな日本の“ヲタク”たちのなかには、業界の盛り上げ役がちゃんといます。
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というわけでsmart Webでは、eスポーツ業界のフロントマンや業界の活性化を担う存在にインタビューを行う連載『eスポーツの輪〜e-sports donuts』をスタート。eスポーツの次代の担い手に話を聞き、テレフォンショッキング方式で輪をつないでもらうことでその実態に触れていくことを目的とします。ゲームをやらない人も、読めばきっと興味を持てるはず。第三回目は国内最大級のeスポーツイベント「RAGE(レイジ)」の総合プロデューサーを務める株式会社CyberZの大友真吾さんが登場!
プロ競技であり、エンターテイメント。
国内eスポーツ大会の最多動員数「RAGE」
――昨年6月、さいたまスーパーアリーナを会場にして行われたRiot Games主催、RAGEが制作・運営を手がけたイベント『VCT 2022 Challengers Japan Stage 2 Playoff Finals』は2日間の開催で26000人を動員、さらに同時生配信された大会の様子は最高同時接続者数が50万人(1日目21万人、2日目29万人)超えと、大きな話題となりました。本イベントをきっかけに国内でのeスポーツ認知はさらに高まったように思います。
大友真吾(以下、大友) ありがとうございます。さいたまスーパーアリーナのイベントは人気ゲームタイトルのタクティカルFPS『VALORANT(ヴァロラント)』の日本代表を決定するための国内予選ということもあって、プレイヤーたちをはじめ、プロフェッショナルな意識や視点を持つ人々が一堂に会したような競技シーン寄りの催しでした。eスポーツの大会も他スポーツの観戦同様、鳥肌が立つようなシーンや人間ドラマを通じた感動が存在します。僕たちイベント運営側としても、オフラインならではのリアルな熱気や空気感をうまく伝えることができたのではないかと思っています。
――大友さんはRAGEの総合プロデューサーであり、イベントをプロデュースしているCyberZの発足から携わっているとも聞いています。まずは現在RAGEが掲げている目標や、RAGEにおける大友さんの役割について伺えますか?
大友 はい。まず現在のRAGEのミッションですが、端的に言うと「eスポーツにおける新たなエコシステムの創造」になります。RAGEをハブにして、eスポーツ産業が他のメジャースポーツ同様に金銭的にも発展し、そして周囲の産業にも影響を及ぼす存在にしていくことを目的としています。そのためにはプロ選手が活躍する場も、それに応じた報酬も用意しなくてはなりません。綺麗事を抜きにして、僕たちはお金を生み出さなくてはならない立場なので。昨年のさいたまスーパーアリーナでのイベントのような大きな動きが生まれるとは、ほんの数年前では考えられもしなかったことです。
次に僕の役割ですが、現在のRAGEではイベントやゲームタイトルなどコンテンツごとに対して熱量の高いプロデューサーが携わってくれているので、収支設計や企画コンセプト、大会ルールなどは各プロデューサーが設定しています。それに対して、より大きな意味合いで事業の将来的な設計だったり、RAGEとしての目標を達成していくために必要なことを考えるのが僕の仕事です。特に今はRAGEを活用した新規ビジネスの仕込みやその体制作りに注力しています。ですが、2009年にCyberZを立ち上げたあとRAGEで業界に参入した2015年当初、チームメンバーは僕を含めて二人しかいませんでした。なので、自分で選手の二つ名を考えたり、入場時の演出や細かなプロデュースを行ったりなど、事業の責任を背負いながらほぼ全ての業務を経験してきました。
――RAGE発足から現在に至るまで、業界にもっとも変化を感じている部分はどこでしょうか?
大友 業界全体としてプレイヤー、そしてファンの裾野が広がっていることは大きな実感としてあります。2015年当時はeスポーツタイトルというとPCゲームが主流でしたが、そこからモバイルeスポーツの台頭によって熱量が加速していきました。また、イベントを開催していて特に感じることは『ヴァロラント』などの人気の高いゲームタイトルの大会にはファッション面にも気を配っている若い年齢層が非常に多いです。
2015年にはいわゆる「ゲーマー」のフレーズから多くの人が想像するような古典的なイメージがたしかに存在していて、それこそ「一見さんお断り」みたいな入りづらいムードが多少残っていました。それがストリーマーやYouTuberなど、身近に感じる方たちがプレイヤーとして登場してきたことで「ゲーマー」の存在は一般化され、少し古臭い言い回しですが「イケてる人がやってること」と認識されるようになりました。今のeスポーツ業界の環境や客層を目にしたゲーム系メディアの方々からも「10年、15年前では考えられない光景ですね」という反応を多くいただきますし、実際に僕もそう思いました。なぜなら、東京、それも渋谷の街にいるようなファッションスタイルの子たちがイベント会場に来て推しチームのグッズやうちわ、応援メッセージなどを手に持ちながらゲームに熱狂しているわけですからね(笑)。
――アーティストのライブやコンサート会場などとも近い雰囲気がありますね。そういう意味でRAGEは他スポーツのようなプロ競技の観戦というよりは、むしろエンターテイメント性の側面が強いように感じています。
大友 まさにその通りです。僕も最初はそうでしたが、eスポーツの情報を海外や国内のメディアからインプットしようとすると賞金総額やプロ選手の年収など「スポーツ」として切り取られた競技シーンの情報が多く、そう認識する人は少なくありません。もちろん、業界において競技シーンは非常に重要なポジションにありますが、それ以上にゲームタイトルやゲームそのものを活用してコミュニティーをいかに活性化していくかがRAGEの役割になるのではないかと考えています。
RAGE立ち上げの背景の話も少しすると、実は格闘技イベントの「K-1(ケイ-ワン)」や「PRIDE(プライド)」にインスパイアされているところがあります。僕自身が格闘技好きということも大きいですが(笑)。空手やキックボクシングなど当時スポーツシーンの主流と思われていなかった打撃系の格闘技をひとつにまとめたK-1は、国内外の屈強な選手たちが競い合い、勝利した者こそ世界一の強者。試合を観ている人の大半がそういった印象を抱いたように思います。それほど日本を席巻した興行だったので、僕たちも「国内eスポーツイベントといえばRAGE」と言われるためにどう成長していくかをかなり意識しています。
ここ数年ではゲームメーカーさんなどの協力もあり、RAGEの認知は実際にプレイしている人たちの間で広がっています。とてもありがたいことである一方で、これからはさらに枠の拡大を考えています。例えば、ゲーム自体をプレイしない人たちでも「東京ゲームショウ」の存在を知っていたり、ファッションならば「東京ガールズコレクション」という言葉を耳にしたことがあったりしますよね。それらと同じように、「RAGEってeスポーツのやつだよね」や「毎年〇〇で開催しているイベント」など、広く認知されたeスポーツ界の有名興行を目指します。今後は日本発の興行として、アジア圏をはじめグローバルへの挑戦も目標にしていきたいです。
――eスポーツの熱狂ぶりは世界中で起こっていますが、日本国内ならではの動きとなるとどういったことが挙げられますか?
大友 海外のeスポーツ事情に精通しているわけではないのですが、僕の印象として海外は競技シーンを軸に発展していっているように感じています。特にアメリカ、ヨーロッパ、韓国、中国などeスポーツ先進国とされている国のeスポーツ市場価値は日本のeスポーツの市場価値より大きな規模であることは間違いありませんし、競技シーンにおいても一歩先を行っている大会タイトルが多いように思います。それに対し、国内eスポーツはカルチャー性を帯びながら盛り上がりを見せています。競技シーン以外にも個々人に備わる強い影響力を軸にしたコミュニティー作り、というのが特徴なのではないでしょうか。
――RAGEもまた、影響力を持つ人物たちやゲームタイトルによって認知を広げてきたわけですが、今後はどのような展開を考えているのでしょうか?
大友 RAGE自体にファンがついてもらえるためのアイディアや施策が必要だと感じています。eスポーツファンのフェーズには基本的な順序があって、まず入り口はストリーマーやプレイヤーなど影響力を持つ個人のファンになるケースが多いです。そこからチームへと関心が広がっていくわけですが、RAGEのファンになるのはさらにその先の話になります。興行を通じてRAGEがeスポーツ内の一つのブランドとして確立した存在になり、信頼を得ることが次のステップだと考えています。
そのファン獲得の施策としても、そして新たなエコシステムを作り出す視点としても一番強化していきたいところがファッションであり、グッズなどのマーチャンダイズ領域です。先ほどもお伝えしましたが今のeスポーツのファン層は非常に高い感度を持っていて、ゲーミングカルチャーを内包したアパレルを身につけることがシンボルの一種になっています。僕の世代だと当時、「ジョーダンシリーズやエア フォース1はとにかく持っておかなきゃ!」みたいな感覚に近いのかもしれません(笑)。アパレル産業からeスポーツへ参入している企業やブランドも増えていますし、以前RAGEも「ビームス(BEAMS)」さんとコラボレーションしています。今後は身につけることで誇れるような存在をRAGE発信で生み出していきたいと思っています。
――より高いエンターテイメント性が期待できそうですね。ちなみに、映画館やライブ会場などでは没入型システムの開発・導入による新たな体感や価値の創出がみられますが、国内eスポーツのオフラインイベントでも同様に最新技術などが駆使されていくのでしょうか?
大友 十分に考えられます。実際に、2017年に中国で行われた『リーグ・オブ・レジェンド』の世界大会の規模感は、国内でいうと新国立競技場クラス(収容人数:67750人)で、会場内にAR演出された3DCGキャラクターが飛んで出てくるような豪華な演出があったり、すでに最先端技術によって観て楽しめる仕掛けが投入されています。海外と国内の技術的な差にそこまで開きはないので、物理的な意味で現段階での実施は可能と言えますが、もしやるとなれば当然費用がかかるので興行収益をどのように上げるかと表裏一体です。関係者への還元は僕たちが課題として捉えている点であり、RAGEのミッションである新たなエコシステムの創造とリンクしてくる部分になります。
ただ、eスポーツはイノベーションによってコンテンツの見せ方やユーザーの体験価値を上げていく可能性がおおいに残されている業界であり、非常に高いポテンシャルを秘めていると思っています。通常のeスポーツのオフライン大会では、来場者たちはゲーム内カメラマンが適宜映す見どころシーンを大画面のスクリーン越しに見ています。しかし技術の進化によって、将来的には自分の端末で推しプレイヤーの視点を常にチェックしながら、大画面のスクリーンでみんなと一緒に実況付きの映像を楽しめる、なんてことも起こりえるかもしれません。
――では、オンラインイベントの今後についてはいかがですか?
大友 今考えていることとしては、エンターテイメント業界では欠かせなくなってきたペイ・パー・ビュー(PPV / pay per view)形式、有料配信です。というのは、RAGEでは大会の決勝戦など大きなイベントをオフラインで実施して、予選やリーグ戦をオンライン配信する、というのが一つのかたちになっています。さいたまスーパーアリーナで開催したイベントも日本一決定戦こそ会場でしたが、その前に2、3ヶ月ほどかけて行われた予選大会を週に三回ペースで無料配信していました。
オンラインで配信する予選はオフラインイベントに比べて日数を有する上に、チケット収入や物販収入が望めないため、スポンサー収入をメインに運営することになります。ではスポンサー収入のみで全体の運営費をリクープできているかと、そうではないのが現状です。なので今後としては、有料のオンライン配信でも観てもらえるしっかりとしたコンテンツ価値を創造していく必要があるんです。とはいえ、無料だったものが有料になるだけではこれまで支えてくれてきた視聴者の納得を得ることは難しいので、「お金を払うことでこんな映像が観られるのか」と思ってもらえるサービスに挑戦しなければなりません。
実はすでに、昨年10月に開催した「RAGE VALORANT 2022 Autumn」のタイミングで映像の一部を有料化しています。『VALORANT』は5対5形式のゲームのため、プレイヤーたちはボイスチャットで連携をとりながらプレイしますが、そのボイスチャットを聴くことができる放送を有料化してみました。グローバル的にみてもeスポーツシーンにおいてほとんど例のない、僕たちにとって初めての試みだったんですが、券売数的には手応えを感じることができる結果となりました。
この試み以外にもゲームタイトル次第でやれることがあるように感じています。例えば、複数人でプレイするゲームならば、お金を支払うことで視聴者は自分が指定するプレイヤーの視点を追加で選択できるような仕組みだったり。これはコロナ禍でのアイドルの音楽ライブで有効になった手段の一つです(笑)。推しアングルを作ることで収益を上げた事例ですが、これからeスポーツの領域でも活用されていくのではないかと思っています。今後の理想は、そういったスポーツ以外のジャンルからも発想を拾い上げつつ、有料化で得たオンラインイベントの収益を出演者に還元していけるフォーマットを形成していきたいと考えています。
可能性を秘めたeスポーツイベント。
リアルな熱狂、ペイ・パー・ビュー。
――今後の伸びしろが期待される、eスポーツならではの柔軟な発想が楽しみです。
大友 また格闘技の話になってしまいますが(笑)、東京ドームで開催された那須川天心と武尊による一戦「THE MATCH(ザ マッチ)」は50億円以上の収益と言われています。会場への入場チケット収入が20億円、ペイ・パー・ビュー(配信)によるチケット収入が30億円と、昨今における国内トップ興行です。もちろん、僕たちの興行をそういった位置までいきなり届かせることは難しいのですが、目指すべきはそういう世界です。もしかすると今のような一つのゲームタイトルだけではなく、RAGEによるeスポーツフェスのような新しいエンターテイメントのかたちが国内トップ興行と肩を並べる存在になるのかもしれません。この先、新しいマネタイズポイントを見出しながらIPホルダーさん(ゲームタイトルやキャラクターなど知的財産を保有する側)と二人三脚でやっていける土壌を強化していくことで、より安定した収益性を狙っていけるのではないかと思います。
――国内でのイベントもそうですが、海外への進出もまたIPホルダーとの連携が不可欠になりそうですね。
大友 はい。eスポーツのゲームタイトルをリリースしているメーカーさんの中には海外に拠点を持っている企業も多くあります。今僕たちが大会を開催させてもらっているゲームタイトルについても各リージョンに拠点があり、体制が整っている状態です。つまり僕たちが日本でやっている大会の運営などはすでに海外で展開されているのが現状なので、海外実績に乏しいRAGEのような日系企業に大会を任せる機会はそうそう巡ってこないでしょう。なので海外進出については、日本ならではのエンターテイメント性や独自のeスポーツコンテンツを持ってして、各リージョンとは食い合わないかたちで相乗効果をもたらす状況を作り出すことが僕たちにとってもメーカーさんにとっても理想的な姿なのだと思っています。
――RAGEはサイバーエージェントを母体に持つ組織ですが、同じくサイバーエージェントを母体に持つ動画配信事業「ABEMA(アベマ)」との連携が今後活性していくなどの予定はありますか?
大友 すでに連携による好リアクションは生まれてこそいますが、eスポーツの配信はYoutubeやTwitch(ツイッチ)、そして僕たちが提供している「OPENREC.tv(オープンレック ティービー)」など、ライブ配信プラットフォームを用いた無料観戦が現在の主流ではあります。なので今後は、より多くの人がタッチしやすくなる手段としてアベマのような大きなメディアを通じてeスポーツを大衆化させていくことにも挑戦したいと思っています。
あとは、東京を中心に開催していたオフラインイベントを各地へと拡大していくために動き出しています。イベントを行うことでコミュニティーの熱量の高さを実感できたので、次はゲーム好き同士が気軽に集まることができる環境を作っていきたいですね。単なるイベント会場としてだけではなく、RAGEだから提供できる場作りに取り組んでいくつもりです。
――ありがとうございます。では最後に、次に登場してほしいeスポーツ界の人物を紹介してください。
大友 『VALORANT』や『リーグ・オブ・レジェンド』などを開発・運営する世界的なeスポーツブランドであるRiot Games(ライアットゲームズ)の日本法人社長/CEO、藤本恭史さんです。2022年5月に『VALORANT』初の大規模オフラインイベントの提案に対してもタイトなスケジュールだったにも関わらず「やりましょう!」と決断と後押しを頂いた、RAGEにとって救世主的存在の方です!
©2022 Riot Games, Inc. Used With Permission
(了)
profile/大友真吾
おおとも・しんご●大学卒業後、2007年にサイバーエージェントへ入社。インターネット広告事業本部配属となり、翌年マネージャーに昇格。2009年より株式会社CyberZ立ち上げメンバーとして執行役員に就任。OPENREC事業およびeスポーツ事業を開発し、現在はeスポーツ事業管轄取締役としてRAGE総合プロデューサー、「PLAYHERA JAPAN」代表取締役社長を務める。
写真=大村聡志
取材・文=本田圭佑
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