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“性的快感=オーガズム”の仕組みを麻酔科医師が徹底解説! 性をもっと快適に楽しむ方法とは?

近年メディアで取り上げられることも増えてきた「フェムテック(Femtech)」。 Female(女性)+Technology(技術)の造語で、女性特有の健康問題やライフステージの課題を技術で解決するアイテムやサービスのこと。フェムテック関連市場は世界的な盛り上がりを見せており、日本でも拡大し続けています。2021年度には経済産業省が「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」の間接補助事業者の公募を行い、国からも推進されています。2021年の新語・流行語大賞にもノミネートされました。

「TENGAがまじめに作った“セックスの教科書”が勉強になりすぎた」誤った性的同意の取り方をしている人は約5割!相手を尊重しながらセックスに誘う方法とは?

フェムテックの領域は、「生理・PMS」「妊娠・出産」「産後ケア」「不妊」「セクシャルウェルネス」「更年期」「婦人科疾患」など、多岐にわたります。今回はその中でも「セルフプレジャー」も含まれる「セクシャルウェルネス」分野を深掘りします。

前回に引き続き「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」がビジョンのアダルトグッズメーカー・TENGAが、「解剖学的な性的快感の仕組みとセクシャルウェルネスの大切さ」について教えてくれました。

★本記事は女性目線で書かれた女性が主語の記事です。

教えてくれたのは……
富永喜代先生

富永喜代

富永ペインクリニック院長。医学博士。日本麻酔科学会指導医。1993年より聖隷(せいれい)浜松病院などで麻酔科医として勤務、2万人超の臨床麻酔実績を持つ。2008年愛媛県松山市に富永ペインクリニックを開業。のべ23万5000人の痛みを治療し、性交痛外来では5000人のセックスの悩みをオンライン診断する。著書に『女医が教える性のトリセツ』(KADOKAWA)など多数。

セクシャルウェルネスとは?

フェムテック分野の中のひとつ「セクシャルウェルネス」。世界保健機構 (WHO)の定義によると、「セクシュアリティに関連する身体的、感情的、精神的、社会的にも健康な状態であること」を指します。また、性の健康を維持するためには、“喜び”も必要だとしています。しかし、男性に比べて、体の構造や、社会的・文化的背景から、「セクシャルウェルネス」を獲得しにくいという性的ハンデや課題を感じている女性も少なくありません。

神経解剖学の視点から
プレジャーギャップについて解説

性反応の4段階を進むのに
かかる時間は、男女でズレがある!

性反応には男女とも同じ4つの段階があります。まず性的刺激を受けて、「興奮期」に入ります。性器が充血し、女性の体を持った人の場合は、愛液が分泌されクリトリスが膨らみ、男性の体を持った人は勃起します。性的興奮が続くと、「高原期」に入ります。呼吸数、心拍数、血圧が上がり、女性は腟の奥が広がり、子宮の位置が上がり、男性はカウパー腺から粘液が数滴分泌されます。性的興奮が絶頂になる、いわゆる「イク」と表現されるのが「オーガズム期」で、そこから平常の状態に戻ることが「消退期」です。

男性は興奮期からオーガズムまで、一直線に上がっていく一方で、女性がオーガズムに至るまでには多様性があり、個人差が大きいため一直線にはいかない場合がほとんどです。女性はオーガズムに達することなく、消退期に至ることもあります。

その違いは、男性は視覚や男性器への刺激で興奮が高まる一方、女性は全身の知覚神経、脳神経で感じる刺激、個体差のある感じるスポットなど、様々な要素が組み合わさって4段階を進むからです。

さらに、女性は副交感神経を優位にすることが重要です。リラックスした状態でないと骨盤底筋がゆるまないため、準備が整わないときに挿入されると痛みを感じ、痛みを感じるとますますリラックスができません。

4段階のステップにおける男女のズレが、プレジャーギャップや女性がセクシャルウェルネスを得られない1つの原因となっていることは明らかです。

単純な男女の体の構造上の違いも

それ以外にも、男女でギャップの起きる背景としては、女性の体は男性器と違い陰部が表に出ていないので、男性よりも、観察したり触ったりしづらいということもあると思います。社会的・文化的背景ももちろんありますが、こういった単純な身体構造の違いも影響しているのではないでしょうか。

まずは「観察する」ところからスタートしても良いかもしれませんね。

神経の集約密度や分布には個人差アリ

外陰部の刺激で得る快感と、腟の中で感じる快感では、感覚が違うと思ったことはありませんか? それは部位によって対応する知覚神経が異なることも要因のひとつです。クリトリスなら陰部神経、腟なら骨盤神経といったように、刺激を受ける神経が違います。

男性にも陰部神経や骨盤神経はあります。しかし、男女での違いを挙げるならば、女性の方が、下腹部の感覚神経が、複数の臓器に張り巡らされていることがわかります。また脳の12ある脳神経のうちの1つに迷走神経という主に消化器のコントロールを行っている

神経がありますが、子宮頚部にある神経終末は迷走神経につながりダイレクトに脳に刺激を伝えます。

そして大切なのが、男女問わず、神経の集約密度や分布には個人差があるということです。同じ女性でも、神経が体表に近い人・深い人、クリトリスに神経経路が多い人・肛門や会陰部に神経終末が多い人……など人により異なります。同じ場所を触ってもくすぐったがる人と、そうでない人がいるのはこのためです。

性器と神経

セクシャルウェルネスは
下半身だけの問題ではなく、
脳が重要

さらに近年の研究では、脳が大きく関係していることがわかってきました。セクシャルウェルネスは下半身の問題と考えられていましたが、神経終末から得た刺激が最終的に脳に伝わることで、オーガズムや射精が起こることがわかりました。脳から脊髄へ、そして体全体に知覚神経が張りめぐらされ、その先に刺激を受け取る神経終末があります。

性器には、神経が集中しています。神経終末から得た刺激が感覚神経を通して脊髄から脳の性中枢へ伝わり、脳の快感回路が興奮することで女性はオーガズム、男性は射精が起こります。

女性は特に「総合的に脳が
リラックスすること」が
性的満足感につながる

女性は視覚、聴覚、触覚などから、「自分が大切にされている」という刺激が脳に伝わると、βエンドルフィンやドーパミンなど快楽物質が分泌され幸福感を得やすくなります。

触る速度や方向もポイント。
神経走行に沿って秒速5センチ、
ソフトな刺激で興奮する

感覚神経の中に、C触覚線維という細くて繊細な神経があります。C触覚線維は、人と人との接触に特化した、いわば愛撫のセンサーです。C触覚線維は全身に存在していますが、特にクリトリスや亀頭に集まっていることがわかっています。女性がクリトリスで感じやすいのはそのためです。また、唇や乳首にも集まっています。C触覚線維は、一定の速度で軽くなでられると感知します。目安としては1秒に5㎝進む程度の速さです。

なでる方向は、神経走行に沿って行うといいでしょう。背中なら上から下へ、腕は肩から手首の方向へ、おしりからクリトリスに向かってソフトにゆっくり触ります。触れるか触れないかの感覚で行うことがポイントです。また、逆方向も刺激のアクセントになります。

セルフプレジャーで
「自分が感じるスポット」を
知ることが、
セクシャルウェルネスにつながる

男女とも神経の種類は変わりませんが、「女性のオーガズムは多様」といわれる理由は、神経の集まり具合や性中枢への複数の伝達ルートなど、個人差が大きいからだと考えられます。クリトリスにC触覚線維が集まっていることは誰もが同じですが、クリトリスも縦横の長さや突出部は人それぞれです。また、C触覚線維が腟の中に多い人は腟内挿入で、肛門の周囲に多い人はアナルセックスで快感を得やすいでしょう。つまり、どこが感じるスポットなのかは人それぞれということです。

自分が感じるスポットがわかっていないと、パートナーに伝えることもできません。そこでセルフプレジャーでいわゆる「開発」をしておくことが重要になります。更年期、加齢による性器の萎縮や腟の下がりなどで、感じるスポットも年代によって変わってくるため、今の自分を知るためにもセルフプレジャーは大切なことです。

「セクシャルウェルネス」は
なぜ大切?
性欲は三大欲求の1つ、
性は心と体の健康に深く関わる

食欲、睡眠欲、性欲は人間の三大欲求といわれ、人間の生命活動に必須なものと考えられてきました。食欲と睡眠欲がなくては生きていけませんが、なぜ、性欲が三大欲求に入っているのでしょうか? 性欲は今まで「種の保存」のためと考えられており、個人の生命活動には関係ない、と他の2つに比べて、個人レベルでは重要視されてきませんでした。

しかし近年、医学的、科学的な側面から、性欲は健康と深く結びついていると考えられるようになりました。性欲は心と体の健康を保ち、健康であるからこそ食欲や睡眠欲が感じられる。食欲、睡眠欲、性欲は渾然一体の関係ですべてが満たされているから安定した三角形を保っていられるのです。

セルフプレジャーで得られる
メリットは女性の
健全な体と心をつくる

“性的快感=オーガズム”の仕組みを麻酔科医師が徹底解説! 性をもっと快適に楽しむ方法とは?

セルフプレジャーは超高齢化社会における健康作りの一環として見直されています。セルフプレジャーは入眠をサポートし、ストレス解消にもつながるなど、数々の健康効果が知られています。世界的にも睡眠時間が少ないとされている日本人ですが、女性の方がさらに短いことがわかっています。また、近年は、病気と睡眠の関係を示す研究がすすめられ、睡眠不足が健康を脅かすことが広く知られています。

ストレス社会といわれる現代を生きる女性にとって、セルフプレジャーによるストレス解消は、健康維持に大きなプラス効果となります。ストレスは生活習慣病をはじめ、心臓病など命にかかわる病気と関係があることもわかっています。

また、セルフプレジャーは脳科学の視点からも、注目されています。セックスだけでなくセルフプレジャーでも愛情・愛着を深めるオキシトシンが分泌されます。オキシトシンは脳内で生産され、体のすみずみに届けられ、不安の軽減、落ち着きや治癒力の促進といったプラスになる心身効果を生み出します。

セルフプレジャーに罪悪感を感じる女性は少なくありません。しかし、これは『女性のセルフプレジャーははしたない』『恥ずべきもの』と教えてきた抑圧的な性教育や育成環境などの影響です。女性だからといって罪悪感を覚える必要はありません。罪悪感を感じて辛くなってしまう人は、「セルフプレジャーをしたら枕カバーを交換する」などの普段と違うポジティブな行動パターンを取り込む習慣を作り、「マスターベーションをしてしまった……」ではなく「きれいな寝床になった!良かった!」という気持ちになれるよう、行動から視点や気分を変える認知行動療法的なアプローチが有効だと思います。

また、罪悪感を捨てて最初から楽しんでしまうのもいいかもしれません。ローションで汚れてもいいように専用のシーツを敷いてみる、女性向けのグッズを使って思いっきり楽しむのもいいでしょう。挿入やオーガズムにもこだわらず、自分が入り込めるシチュエーションで自由に楽しんでください。

《COLUMN》
セルフプレジャーの後に
眠くなるのには
医学的根拠があった!

オーガズムを感じると、脳内に「オキシトシン」と「エンドルフィン」 という2つのホルモンが分泌されます。エンドルフィンは鎮静作用 があり、オキシトシンは、セロトニンを介して睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌を促進します。 また、男性は射精により「プロラクチン」が分泌され、このホルモンが多くなると眠くなることがわかっています。

いかがでしたか? 近年の「フェムテック」を始めとするムーブメントによって、性生活の課題として注目されるようになった「プレジャーギャップ」。

性反応の4つの段階に男女でズレがあること、身体構造の違い、女性は特に脳の快感回路が重要なことなど、男性に比べて女性がセックスでオーガズムを感じにくい原因がいろいろあることがわかりました。

もちろんオーガズムがプレジャーの全てではないので、オーガズムを感じられなくても「気持ちよさ」や「幸せな気分」といった心理的な満足感があればいいという人もいるだろうし、人知れず「プレジャーギャップ」に悩んでいる人もいるかもしれません。お互いが楽しくフェアにセックスを満喫するためにも、気持ちいい時も、いまいちな時も言葉や態度でしっかりコミュニケーションをとることを大切に。

最近は、ひとりでもパートナーとでも楽しめる「プレジャーアイテム」がたくさん発売されています。まずは自分にあったプレジャーアイテムを見つけて、自分の気持ちよさを探るのも、感じやすい身体をつくるひとつの手段。また、セルフプレジャーはオーガズムに固執することなく、純粋に気持ちよさを楽しむ練習にも。誰もが自分なりの「気持ちいい」を楽しめる時代になりますように。

編集&文=鈴木恵理子

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