連載真説 星野仙一 ~誰も知らない“鉄拳制裁”の裏側~

「嫌いな人こそ笑顔で接しろ」盟友・田淵幸一も驚いた星野仙一流“ジジイ殺し”テクニックと飴と鞭の“人心掌握術”

執筆者: ノンフィクションライター/長谷川 晶一

メダルを逃し、「お友だち内閣」と揶揄された北京五輪についても語ってくれた

北京五輪で見せた温情采配が裏目に

続いて、田淵は重要な指摘をする。

「星野は年上、年長者とのつき合いは抜群にうまかった。でもその反面、年下、後輩とのつき合いはなかった。みんな怖くて近寄れないから。それでも、彼の懐に飛び込んでくるヤツがいれば大したものだけど、そんなヤツは見たことも、聞いたこともなかったな」

この発言にこそ、星野の交友関係の大きな特徴が潜んでいる。さらに田淵は「飴と鞭」という言葉を口にして、星野の「鉄拳制裁」について言及する。

「よく、“選手に鉄拳制裁をする監督だ”とか、“モノに当たる、粗暴だ”という批判があるけど、あれは全部パフォーマンスだから。オレたちはみんなそれを知っている。だけど、星野の本質を知らない人は、“うわっ”と抵抗感を示すんだよね。例えば、失敗した選手がいるとしますよね。でも、星野は必ず使い続ける。決して間を開けずに必ず起用する。飴と鞭じゃないけど、その根底には選手たちへの愛があったのは間違いないから」

 ミスをした選手の奮起を促すべく、星野はすぐに汚名返上の機会を与える。決して、これ見よがしな懲罰交代はしない。これも、指揮官である星野を論ずるときにしばしば耳にする言説だ。その結果、意気に感じた選手たちは奮起し、早々にミスを取り返すと同時に、起用してくれた星野への感謝の念が強くなる。それが、星野による「飴」である。

 しかし、「飴」がうまく機能しないこともあった。その象徴的なシーンこそ、08年北京オリンピックでのGG佐藤(以下、GG)の起用である。このとき田淵はヘッド兼打撃コーチとして、北京の地に降り立っていた。星野率いる日本代表は、アジア予選を全勝で本戦に出場したものの、予選ラウンドは4勝3敗で4位となる。そして、メダル獲得をかけた準決勝の韓国戦、さらに韓国に敗れて臨んだ翌日の3位決定戦となるアメリカ戦。いずれも、GGはスタメン出場を果たし、いずれも、彼のエラーで日本は敗れた。田淵が述懐する。

ともに星野仙一とは大学時代からの盟友であった田淵はヘッド兼打撃コーチとして、山本浩二は守備走塁コーチとして星野を支えた。

「あのとき、外野陣が手薄だった。聞くところによるとGGはドライアイでデーゲームではボールが見づらかったらしい。もともと、彼はキャッチャーでしょう。オレも経験があるけど、キャッチャーが外野を守ると、ボールが揺れて見えて捕球しづらいんだよね。だから、監督には、“GGはやめましょう”って言ったんだけど、星野はどうしてもGGの起用にこだわったんだよね」

 北京における温情采配は、GGだけでなかった。予選で二度、救援に失敗していた中日ドラゴンズ・岩瀬仁紀を準決勝でも起用し、その彼が決勝点を奪われ、日本は敗退していた。田淵は振り返る。

「後に明らかになったのは、北京での岩瀬は、現地に着いてから下痢に苦しんでいて本調子じゃなかった。本来であれば、ピッチングコーチの大野(豊)が監督にきちんと伝えるべきだったんだけど、それができていなかった。それも大きな敗因の一つだったな」

 このとき、監督の星野を筆頭に田淵がヘッド兼打撃コーチ、山本浩二が守備走塁コーチを務めていた。三人は大学時代からの親友であり、公私にわたって密接な交流を続けていた。球界を代表するスラッガーだった山本を守備走塁担当として抜擢したことは、はたして正しかったのか? 世間からは「お友だち内閣」という批判の目が向けられることになった。

「オレ自身は、決して《お友だち内閣》だとは思っていなかったし、公私を分けるために、《仙ちゃん》ではなく、《監督》と言うように意識していたけど、浩二は普段通りに星野のことを《仙》と呼んでいた。やっぱり、他人から見れば、それは《お友だち内閣》と言われても仕方なかったと思うな」

 田淵は、しみじみと反省の弁を口にした。

この記事を書いた人

1970年生まれ。早稲田大学卒業後に出版社へ入社し、女子高生雑誌『Cawaii!』などのファッション誌の編集に携わる。2003年からフリーに。ノンフィクションライターとして活動しながら、プロ野球12 球団すべてのファンクラブに入会する「12 球団ファンクラブ評論家®」としての顔も持つ。熱狂的な東京ヤクルトスワローズファンとしても知られ、神宮球場でのホームゲームには全試合駆けつける。単行本が7刷となり文庫化もされている『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間』(単行本:インプレス、文庫:双葉社)をはじめ、ヤクルト関連の著書・連載多数。スポーツ総合雑誌『Sports Graphic Number』(文藝春秋)にも定期的に寄稿中。日本文藝家協会会員。

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