“フェミ男”ブームの象徴・武田真治が振り返る1990年代「アゴも動かなくなった」時代を救った忌野清志郎という“天使”
執筆者: 編集者・ライター/高田秀之
“天使”忌野清志郎が遺してくれた教え
――そこでは音楽の話で盛り上がったりとか?
武田:いや、全然盛り上がらなかったです。清志郎さんは自分の自宅スタジオなのに居心地悪そうに隅っこに座っていて、我々が持ち込んだお酒とおつまみも手をつけているんだかいないんだか、うつむいてアコースティックギターを爪弾いている感じで、誰もが知っている彼のステージの姿とは全然違っていたんです。本当におとなしいというか、岡村隆史さんのオフの状態を超えていましたね。
こっちも鬱っぽいときだったので、話しかけられなかったですし。で、突然「君、サックス吹くんだよね?」って言われて、僕がサックスを吹くのを知っていらして、「サックスあるからなんかやる?」みたいな感じで、エレキギターに持ち替えたんです!
その時点でサックスに一年以上は触れていなかったけど、「あの忌野清志郎とセッションする」ということがどれだけ特別なことか分からないほど僕も腐っていなかったんでしょう。顎はまだ痛かったけど、このチャンスを逃したら二度とサックスを吹けなくなるなと直感的に思って、弦を押さえる彼の左手元を見ながら、一生懸命吹きました。数分間続いたと思います。すると、「やるねえ」って。「今度デモテープ作るときに吹いてくれない?」って言われて、そこからですね。
――それで、アルバムにも参加し、ツアーも一緒に回るようになったんですね。
武田:デモテープだけじゃなく、正式にレコーディングに参加したり、ライブにも呼んでいただけるようになりました。全国のツアーを回っているうちに清志郎さんが体力作りの一環として自転車を始めて、みるみるハマっていって、あるときはライブに関係なく自転車でどこまで行けるかって、バンドメンバーで楽器も持たずに鹿児島まで行ったりしたんですよ。
あの頃ペダルを漕ぎながらずっと聴いていたのは「トラジスタラジオ」っていう、清志郎さんがRCサクセション時代の曲。あの歌詞がまさに芸能の仕事を抜け出してツアーに出てる僕とシンクロしてて。あの方からはいろんなことを学びましたね。自由に生きるとは?ロックバンドの生活、ステージに立つこととは?何より、体力作りの大切さとその効果を間近で見せてもらえたのは、今の僕の筋トレに直結していると言えるほどの教えになりました。今でも僕は、“天使”に会えたと本気で思っています。
――最近のお気に入りのファッションは?
武田:なんでしょうね。今日取材現場に来て、30年前のsmartの記事を読んでびっくりしたんですけど、そのときと同じベルトを今日してきちゃってます。そんな感じです(笑)。
――すごい(笑)。ちなみにファッションの好みは昔とは変わったんですか?
武田:ライダーズジャケットはずっと好きで、40〜50着ぐらい持ってます。実際バイクに乗るからかな。いや、ライダーズジャケットを着たいからバイクから降りないのかも(笑)。流行について思うことは、ファッション業界って、例えばスキニージーンズが流行ると、次は太めのパンツを売り出したりしますよね。これは持ってないでしょ?って。もちろんきっと良かれでね。
でも、流行が変わっても好きならスキニーも穿き続ければいいと思うんですね。流行を押し付けたり、人のファッションをジャッジするのって、自信がない奴がやることだと思っていて。太いパンツがかっこいいと自分が思いたいから、「お前も穿け、細いパンツ穿いてるのはカッコ悪い」っていう奴が一番カッコ悪くて、本当にかっこいい人は黙って穿いてますから。ファッションに迷っている人がいるなら、ファッションってきっと正解がないものなんだから、知識なんかなくても安心して楽しめばいいよと言ってあげたい。ファッション誌とかいろいろな情報を教えてくれるし、参考になる意見もあってありがたい存在なんだけど、絶対じゃなくて選択肢の一つと捉えてみれば?って。
――もうちょっと自分の感性を信じようと。
武田:うん、あのー。はみ出ていいと思う。ファッションに限らずなんでも、一般常識からはみ出て初めてセンスが問われる。それこそ時代によってはTシャツからヘソが出ていたことで評価されることもあるし(笑)、はみ出て失敗してからの学びが結果的に自分に合うスタイルを作るんじゃないかな。人の顔色を伺って、ずっと流行ってるものや無難なものを買い続けても、自分よりそれが似合う人は絶対にいる。こだわってはみ出て失敗して笑われて、やめるもよし、どうしても好きなら続けてもよし。個性ってその先にしかないのでは? 安心して!僕なんかこのベルト、30年間ただの一度も褒められたことないけど、使い続けてますからね(笑)。
この記事を書いた人
流行通信社、ロッキング・オン社をへて、1990年に宝島社入社。Cutie編集長ののち1995年にsmartを創刊。2024年に退社し、現在はフリー。
Instagram:@htakada1961
Website:https://smartmag.jp/
お問い合わせ:smartofficial@takarajimasha.co.jp
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