「セフレが下、恋人が上というわけではない」「セフレという略語の雑さや軽さが…」今泉力哉&山中瑶子が切り込む現代の恋愛観
執筆者: ライター/石野志帆
監督2人が見つめる、現代人の恋愛との距離感
──『セフレと恋人の境界線』という企画を初めて聞いたとき、どう感じましたか?
今泉 企画のお話をいただいた際、地上波ではやりづらいテーマを「Prime Videoだからこそより突っ込んで」という意図が込められていたのかもしれません。番組内で観る映像を単なる”再現VTR”ではなく、きちんとしたドラマを作ってほしいという依頼でした。実際に制作するにあたっては、「恋人という関係性が上で、セフレは下、というわけではない」ことは強く意識しようと思いました。第1作は「恋人になれるかどうか」という少しベタなテーマでしたが、第2作と第3作は「セフレのほうが気が楽」という関係性を見せたり、男女の描写を逆にしたりするなど工夫をしました。「辛い目に遭っている人がいて、それを弄んでいる人がいる」という安易なものにはしたくなかったんです。ただ、『セフレと恋人の境界線』というタイトルは、山中さんがすごく嫌がっていましたよね(笑)?
山中 正直、最初はちょっと嫌でしたね(笑)。セフレという概念が嫌なのではなく、この3文字の略語の雑さや軽さが、私には抵抗がありました。“セフレとの葛藤”を語るとき、世の中で耳にするような「セフレが~」といった会話のノリや語感によって、軽く聞こえてしまうことがあると思うんですよ。猥雑(わいざつ)な雰囲気だけが突出している感じがあるというか。
今泉 どんなに悩んで、どんなに辛いと言っていても、「でもセフレでしょ?」で解消されてしまいそうな。
山中 まさにそうです(笑)!
──あいまいな関係性を続ける人の中には「恋愛が面倒」という価値観も背景にあると思います。このような恋愛観について、お二人はどう思われますか?
今泉 恋愛は面倒です(笑)。面倒だからこそ面白いし、する意味があるとも思っています。面倒じゃない恋愛は楽しくない。最近はマッチングアプリを使う人が多いですよね。条件提示によって、自分が良いと思う相手と出会えたり結婚したり、プラスに働くことももちろんあると思います。ただ、「損得やコスパで生きていたら、恋愛なんてしなくなっていくだろうな」とも思うんです。
山中 そうした人が増えているというのは、肌で感じますね。私は昔、「恋愛とか、いいから」と言っている人の気持ちがわからなかったのですが、今はすごく分かります。恋愛は感情も時間も使いますし、他に集中したいことがある人にとっては避けたくなることもあるでしょう。人と人との繋がりが希薄な現代だからこそ、そこにのめり込んでいくのが「だるいし、よく分からない」という人も多いのかもしれません。私自身は「恋愛とは、事故のようにぶつかって突然起こるもの」で、「(日常の中で恋愛が始まることは)コントロールできない」と以前は思っていました。
でも、恋愛をすると仕事がおろそかになるタイプなので、いまは「両立できないから避けている」という側面もあります。あと、「相手は結局誰でもほとんど同じ」みたいなことに気づいた、というのも大きいかもしれません(笑)。「この人じゃないとダメだ」という人なら頑張って時間も体力も使いますが、そうではないな、と。
今泉 なるほど。私は、恋愛だけじゃないけど、めんどくささも含めた「人との関わるという行為」が、作品を作るよりも大切で、「それをしていないと生きていて意味がない」くらいの人間なんで、真逆ではあります。
山中 私だって仕事が一番上じゃないですよ(笑)。ただ、恋愛とか深く踏み込んだ人付き合いって、自分を変えるか、相手を変えるか、みたいなフェーズに入ったりするのがすごく嫌なんです。
今泉 相手が変わるのも嫌だってこと?
山中 相手を変えようとする力学が働くのも恐ろしい、と感じてしまうんですよ。
今泉 なるほど。みんなが山中さんみたいに考えた結果、恋愛をしてないとは思わないけど(笑)、たしかに変化が怖いっていうのは、わかる気はしますね。
──本編でも「付き合わなければ終わりが来ない」「失うのが怖い」という内容のセリフがありました。そういった臆病さから「恋愛が面倒だ」と感じる人が多いという側面もあると思いますか?
今泉 「付き合ったら終わりが来る」「恋愛をしたら関係性が元に戻れない」という相談は本当によく受けますね。「お互い好きな気はするけれど、体の関係になったときに元に戻れないのが怖い」とか。DMでも恋愛相談がめちゃくちゃ来るのですが、私はいつも「告白はしたら?」と言っています。「関係が変わってもいいんじゃない?」と。「お互いに『好き』という気持ちがあったのに言わずにいる間、相手が他の人と付き合っちゃうのが一番キツくないですか?」と。それに、自分が本当に好きだと思っている人って、そんなめちゃくちゃひどい振り方をしてこないんじゃないの?と思うんですよね。
山中 お互いの関係性を客観的に見て「今、告白してもいいな」と思えている人たちはすればいいと思うのですが、時に「え、なんで?」という人が告白してくるケースもよく見るじゃないですか。それを「怖い」と感じて拒絶する、という話も聞きます。自分と相手に流れているものを冷静に見る、ということすらできなかったり、面倒だったりする人もいるのかもしれません。最近は「告白することすら、加害的な行為だ」という言説もありますし、「当たって砕けろ」みたいなことがもう間違いだとされる風潮もあるかもしれないので、いろいろと臆病になるだろうな、と思います。
──『セフレと恋人の境界線』というタイトルですが、制作してみて、そうした境界線、つまり決定的な違いはあると感じましたか?
今泉 分からないですね~(笑)。たとえば、セフレという状態の人に他の恋人がいるか否かでも、状況は違ってくると思うんです。第2作では、恋人ができた主人公はセフレと距離を取ったりもしていますし。第3作の2人の関係性のように、部屋の中だけで会うのが許されるけれど、もし街で普通にデートしたり気ままに歩いたりしたら、彼女の側からすると後ろめたさがあるかもしれない。外側から見れば大きな違いがあるかもしれませんが、2人だけの時間においては、そんなに大きな差があるのかは、正直分かりません。
山中 私は「(告白という)言質を取っているか、取っていないか」というのは大きいと思います。告白によって、何らかの「契約」のようなものが発生しているか、していないか。違いがあるとしたらそこかな、と思いますね。
この記事を書いた人
TV局ディレクターや心理カウンセラーを経て、心を動かす発見を伝えるライター。趣味はリアリティーショー鑑賞や食べ歩き。海外在住経験から、はじめて食べる異国料理を口にすることが喜び。ソロ活好きが高じて、居合わせた人たちの雑談から社会のトレンドをキャッチしている。
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