「遊んでないけど、遊んでた」スチャダラパーBoseが語る、青春の裏原宿とあの日の「今夜はブギー・バック」
執筆者: 編集者・ライター/高田秀之
「昔はひねくれの極地だったのに、30年たったら真ん中になっちゃってた」
――2020年に「サマージャム2020」を発表しましたよね。「サマージャム‘95」を自ら振り返ったのかと思いました。
Bose「『サマージャム』って出たときよりも、10年20年経ったほうが、みんなに染み込んでいて、それこそ2000年を過ぎてからのほうが、“夏に聴いてるんです”って言われるようになったんです。最近でも若い人が夏はあの曲ですよねって言ってて、尻上がりに代表曲になっていったから、そろそろ年もとって20代じゃない感じで作ったら面白いかなと思って。50歳になる感じのサマージャムも。ちなみに2020年は昭和95年なの、計算で行くと。サマージャム昭和95年なの。スチャダラパーは誰にも気付かれなくてもそういうことばっかりやってる」
――2020年頃から90年代が再びブームと言われてますが。
Bose「2000年くらいに90年代っぽいものが一回来てた気がするんだけど、まあでも、ここ数年、20、30歳下の子たちのファッションのフォルムが一緒っていう状態なのは、可愛くて懐かしく見える何かがあるんでしょうね。自分らが90年代に60年代のクレイジーキャッツを見て、こんなおしゃれな格好や内容だったんだって、めっちゃ掘ってたのと同じなんじゃないかな。90年代のいいところだけをピックアップしてるんでしょうね。60年代のモダンなビルも、裏ではボロボロの街があったわけじゃん」
――90年代の何が良かったんでしょうね?
Bose「インターネットもないから、まだフロンティア、未開のものが探せばあるって感じだったと思う。ニューヨークでデッドストックの安いスニーカーを見つけたり、DJがかけてる音楽も、“何これ?”と思っても調べる手段がないから、想像力で、こうなんじゃないかなって思って、間違ったりしながらも、ワクワクしてる感じ。グラフィティとかも、ニューヨーク行かなくちゃ見れなくて、日本じゃほとんど描かれてない、みたいな。グラフィティも、ウチらが仲良くしてもらったフューチュラさんとかスタッシュさんとか、もう大・大御所じゃん。そういうふうになっていくよね」
――90年代のストリート感覚って、今はどこにあるんでしょう?
Bose「今の時代に、今の感覚で、僕らがヒップホップに感じたようなものを掴んで、インディペンデントなものを作ってる人はいると思う。結局、若くてお金もないけど目茶苦茶したれ!っていう感覚は変わらないから。安いパソコンでフリーソフトを使って一銭のお金もかけずに1人で作ってますみたいなのが、ぼくらにとってのヒップホップっぽいのかな」
――以前、宮沢章夫さんが90年代のサブカルの代表としてエヴァと岡崎京子を挙げてたんですよ。それはそれですごい終末感というか。
Bose「でも自分たちが惹かれたサブカル的なものって、それまで王道だった世界をどんどんぶち壊してて、それを面白いと思って見てたし、それこそバブルですごく調子が良かった日本をダセエって言ってる人たちがいて、それをかっこいいと思ってたから。だからどこか退廃的だし、なんか“全員死ね”と思ってやってるみたいなのが好きだったっていう感じはありますよ。ぼくらもその流れに乗ってるから、ずっと王道ではないっていうか。普通だとつまんないし、どっかひねくれてないとヤダみたいなのをいまだに思ってるところがある。90年代を宮澤さんがそう捉えるっていうのは、大人から見たらそうだったんじゃないのかな。ピテカンとかに始まったクラブの世界も、なんか死の匂いが漂ってたというか、全部ぶち壊したれってマインドが感じられてカッコよかったですけどね」
――アンチの時代ですよね。
Bose「完全にそうだと思う。だって自分たちだって、なんとか少しは売れたからいまだにブギー・バックだって言われてるけど、ブギー・バックが生まれる前は、早稲田とか慶應の学生がお揃いのジャンパーを着て渋谷で遊んでるのを“死ね”と思って見てたわけだから。そういうエネルギーで作られてるからね。気づいたらブギー・バックで王道で真ん中にいたみたいな感じになったけど、全く真ん中じゃないから。捻くれの極地みたいなのがブギー・バックとかサマージャムに繋がってるわけで。まあ、でもそれも30年たってみると、ウチらみたいなのも結局真ん中になっちゃったっていうか、森美術館でゴジラ展、真ん中じゃんって。それは、自覚しないと」
――真ん中が移動した?
Bose「大きくなって、肥大した。50代の人が、いつまでたってもサブカルと思ってるみたいだけど、“お前ら真ん中だからな”と20代の子は思ってると思うんだよね。お前らがずっとそこにいるからやりにくいんだよって思われてると思ってる、そういう自覚はだいぶある」
――でも60年から90年はいろんなものが変わりましたけど、90年から2020年はそれほど変わってない気もしますが。
Bose「90年代にクレイジーキャッツやドリフはもうグループではあまり活動しなくなったけど、ぼくたちはクレイジーキャッツをずっとやっている状態だよね。ぼくら世代って、ミュージシャンも芸人さんもいっぱいいて、新陳代謝が起こりにくいまま、日本全体が歳をとった感じになってると思う。渋谷の街もぼくらが出てきた頃と本質は何も変わってなくて、逆に90年代はよかった、90年代に戻ろうっていう怖さを感じます。だから、smartもさ、本来1990年代に描いてた未来の、2025年のsmartがあるはずじゃん?それは雑誌ではないのかもしれないけど。昔は、雑誌は将来、空気にディスプレイされるようになるって思ってたけど、まだサイズが変わらないままのsmartが普通にある時点でヤバいよね(笑)」
スチャダラパーが登場した過去のsmart
smart98年2/9号
smart98年4/6号
Profile/Bose(スチャダラパー)
スチャダラパーのMC担当。1990年にアルバム『スチャダラ大作戦』でデビュー。以来、なんやかんやあって、現在に至る。グループとしては、デビュー30周年を迎える2020年にアルバム『シン・スチャダラ大作戦』を発売。2024年11月に「今夜はブギー・バック(LUVRAW REMIX)」を配信、アナログでリリースし、日比谷野外大音楽堂で単独公演『サンプリングスポーツの秋』を開催した。デビュー35周年となる2025年5月には東京、大阪で記念公演を行い、「Bメン feat.田我流」、「ビート道 feat.ロボ宙」をリリース。9月2日にLINE CUBE SHIBUYAで『5th WHEEL 2 theCOACH 30th LIVE』を開催する。
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Photography _ KEISUKE NAITO
Styling _ Bose(SDP)
Interview & Text _ HIDEYUKI TAKADA
Cooperation_Good Mellows
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この記事を書いた人
流行通信社、ロッキング・オン社をへて、1990年に宝島社入社。Cutie編集長ののち1995年にsmartを創刊。2024年に退社し、現在はフリー。
Instagram:@htakada1961
Website:https://smartmag.jp/
お問い合わせ:smartofficial@takarajimasha.co.jp
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